クアラルンプール(KL)からシンガポールへ、いよいよ国境越えだった。

KLからシンガポールまではバスで約5時間。調べてみると、実は多くのバス会社が運行をしており、とても便利なのである。
よく使われている一括検索サイトが Easybook だった。「KL → シンガポール」と打つだけでバス会社の料金が一括比較できる。僕はその中から 2400円のバス を予約した。
今思えば、東南アジアの長距離バスは本当に安かった。今でもEasybookは現役で使えるし、KL〜シンガポール間ならスマホひとつで席まで指定して予約できる。当時より格段にラクになっている。
バスは順調、そして国境へ

バスは順調に進み、いよいよ国境に到着した。
ここで事件が起きた。
入国審査に引っかかり、しかもその間にバスが行ってしまったのだ・・・・
まさかの別室送り
シンガポールに入国するには、パスポート(残存有効期限6ヶ月以上)と入国カード、そして 出国用のフライトチケット が必要だった。ベトナムと似ている。
ただ、ベトナムでは出国チケットを持っていなくても問題なかったので、「まあ同じだろう」と軽い気持ちでいたのだ。これが甘かった。
いざ入国しようとしたとき、係員に「出国用のチケットは?」と聞かれた。「まだ持っていない」と答えた瞬間、空気が変わった。
すぐに警備員が現れた。腰には拳銃。物々しい装備の係官に挟まれるようにして、僕は別室へ連れて行かれたのだ。
「いや、バスが待っているから」と必死に訴えると、「心配しないで、大丈夫」と警備員が一言。だが目はまったく笑っていなかった。
そこから15分ほど待たされ、銃を携えた係官に囲まれたまま、10分ほどの尋問が始まった。
- 「あなた、次はどこの国に行くの?」
- 「なんで出国用のチケットを持っていないの?」
- 「その次の国はどこ?」
- 「シンガポールは初めて?」
- 「目的は?」
質問が次々と飛んでくる。狭い部屋、無機質な蛍光灯、武器を持った大人たちの視線。背中に冷たい汗が流れた。「このまま入国させてもらえなかったらどうしよう」と、本気で肝が冷えたのだ。
最後にこう言い渡された。
「次にやったら、二度とシンガポールに入国できないし、住むこともできないからね」
誠意を見せ、何とか解放してもらった。完全に調査不足であった。次からは必ず入国審査に必要な情報を調べようと心に誓った。
今思えば、シンガポールの国境は警備員の数も多く、終始ピリピリとした空気が漂っていた。世界でもっとも経済成長している国のひとつであり、テロ対策のためなのだろう。出国チケットの提示は国によって本当にシビアだ。今ならスカイスキャナーで予約だけ確認しておくか、最悪「リターンチケット代わりの安い航空券」を1本押さえてから国境に向かう。あの別室の空気は、二度と味わいたくない。
バスが、ない
解放後、急いでバス乗り場に戻った。
ところが、乗ってきたバスがどこにも見当たらない・・・・・・遅かったので、バスは行ってしまっていたのだ。
「あー、このパターンか」と、思いのほか動揺はしなかった。(自分でもびっくり)
バックパックを背負って旅を続けるうちに、トラブルにもすっかり慣れてきていたのだ。バスに乗り遅れる、道に迷う、言葉が通じない――旅の序盤なら頭が真っ白になっていたであろう場面でも、今では「まあ、なんとかなる」と笑っていられる。場数を踏むというのは、こういうことなのだろう。
荷物はどうなった、という心配もあったが、もう開き直るしかない。こういうときは、とにかく人に聞きまくるのが旅の鉄則だ。
親切なおばちゃん、現る!
① 近くにいた警備員に聞く
僕「(地図を見せて)ここに行きたいんですが、どうすればいいですか?」 警備員「お金はあるのか? シンガポールドル」 僕「あっ、ない!」 警備員「まずは金だな。まっすぐ行くとエクスチェンジがあるから、そこでシンガポールドルに両替して、170番のバスに乗れ。最寄りのMRT駅から中心部まで行くんだ」 僕「OK!」
② 売店のおばちゃんに聞く(エクスチェンジが見つからず)
おばちゃん「そこのショッピングセンターの中だよ!」 僕「ありがとう」
③ エクスチェンジのおばちゃんにも聞く
僕「最寄りのMRTまでの行き方を教えて」
親切に教えてくれたが、いまいち理解できなかったので、結局は警備員に言われた通りに進んだ。
④ 170番のバスに乗り込む
どこのバス停で降りればいいのかわからず、隣に乗っていたおばちゃんグループに聞いてみた。すると、その中の一人が「方向が同じだから」と、なんと送ってくれることになったのだ。
おばちゃんは僕にいろいろ質問を投げかけてくる。「シンガポールは初めて?」「旅行なの?」英語なので所々通じない部分はあったが、本当に親切なおばちゃんだった。
話しながらバスを1回乗り換え、MRT駅に到着。
切符を買おうと財布を見たら、バスでコインを使い果たしていた。するとおばちゃんがお金を取り出し、僕のチケット代を払ってくれたのだ。
「いいのいいの、この電車に乗ってチャイナタウン駅で降りるのよ!」
見ず知らずの僕に、ここまでしてくれるのか――。
2026年の今ならこうなる(振り返り)
あれから時が流れ、シンガポールの旅事情もずいぶん変わった。同じルートをたどる人のために、当時と今の違いをまとめておく。
| 項目 | 当時(2016年) | 今(2026年) |
|---|---|---|
| 入国カード | 紙の入国カードを記入していた | 廃止。到着前3日以内に「SG Arrival Card」をオンライン提出する |
| 出国チケット | 提示を求められて別室送りに | 今もシビアに確認される。事前に片道航空券を1本押さえるのが安全 |
| MRTの切符 | コインで購入(→使い果たして詰まった) | タッチ決済対応。クレカや海外プリペイドをかざすだけ(SimplyGo) |
| 両替 | 現地で現金両替が必須だった | ほぼキャッシュレス。カード1枚あれば両替で詰まらない |
| バス予約 | Easybookで一括比較 | Easybookは現役。スマホで席指定まで完結する |
今思えば、あの日の僕を苦しめた「出国チケット」「コインの切符」「現金両替」は、どれも今ならスマホとカード1枚でほぼ解決してしまう。それでも、トラブルがあったからこそ人の優しさに触れられたわけで、何でもスムーズに進む今の旅が、必ずしも豊かとは限らないのかもしれない。
人に助けられて、旅は続く
入国審査で引っかかり、銃を持った警備員に囲まれて尋問され、挙句にバスにも置いていかれ、正直ブルーな気持ちになっていた。
それでも、シンガポールの人たちの優しさに、心の底から救われたのである。
この旅は本当に、多くの人に助けられている。感謝の心を忘れずに、旅を続けようと思う。
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つづく。